東京

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出来るだけ、仕事の取引に寄せて、私的な関係の話を切り上げたい。 これ以上、私的な話をしていて、泣かない自信がなかった。 エレベーターまで送る、と加藤さんがエスコートしてくれる。 昔の恋の答え合わせが出来て、懐かしく切ないのと同時に、その昔の恋の贖罪で仕事を回されているのかもしれないという鉛を飲んだ重さがあった。 「わざわざ、遠くから、ごめんね。顔を見れて、話せて良かった。じゃ、気をつけて」 エレベーターが着く。 「加藤さん。昔の事は、本当に気にしないで下さい。それで、……それでも今後も一緒にお仕事をしたいと思って頂けたら、嬉しいです」 頭を下げて、エレベーターに乗り込んだ。 勘の悪い人ではない。 私の言いたいことは伝わったと思う。 これで仕事が無くなっても仕方がないと思う。 一階について、訪問者のIDを受付に返して歩きだすと、「佐藤さん!」と加藤さんが追いかけて来た。 「あの、仕事お願いするのは、佐藤さんの仕事の評価だから。昔の事は関係ないから」 真正面に向き合って言われた。 気にしていた事を今、わざわざ言いに来てくれたのが、嬉しい。 「あ、ありがとうございます」と、頭を下げた。 昔の恋人の優しさに目が熱くなる。 「じゃ、宜しくお願いします」 さっと頭を下げると踵を返して戻って行った。 涙がこぼれないうちに、足早にビルを出た。
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