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そのままとにかく地下鉄に乗って、会社の最寄り駅を離れる。
会社から離れていくにつれて、少し緊張が解けてきた。
頂いた資料を入れた鞄をしっかり抱えて、視線をガラスの向こう側へさまよわせた。
うれしいのか、悲しいのか、わからない。
この世の中のいろんなことは、タイミングだと思う。
私は自分でも整理できない感情にうずくまって、今すぐ泣き出したいと思うくらい子供だけど、こうしてハイヒールを履いて、背筋を伸ばして、取引先となった元カレに頭を下げるくらいには大人だ。
心に薄く膜が貼っている。
あの人に、仕事を認めてもらえたんだから、良いじゃないかと思う。
大人になると、黒白はっきりしてることなど、それほどないと気が付いた。
いつも、ぐちゃぐちゃと混ざりあって、足元を取られそうになる。
悲しみの中に希望があったり、強烈な幸福感の中に不安が混じっている。
私はその混沌の中で、ちゃんと自分の足で立っていたいとおもう。
だけど、時々、腕の中に抱きしめて、大丈夫だと言ってほしい。
あなたは頑張っていると頭をなでて欲しい。
徹君に会いたかった。
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