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そのまま繭ちゃんとの待ち合わせの駅に向かって、待ち合わせまでの時間、少し駅周辺で時間をつぶそうと思って歩き出す。
改札から少し離れ、人の流れが落ち着くところまで出た。駅ビルの一角で一息ついて携帯を開くと、徹くんからメッセージが入っていた。
シンプルに『今、電車。もう着いた? 大丈夫?』
しばらく前のメッセージだから、もう横浜についただろうか。もしかしたら、まだ移動中かもしれない。
移動中に迷惑かもしれないと、一瞬ためらったけれど、ただ少し声が聞きたくなって、電話した。
徹君は電話を取ると、「葵、ちょっと待って」というと、場所を移動したのか、ちょっとして改めて「もしもし、葵、大丈夫?」と声がした。
「うん。今、いい?」
「ん。もう横浜ついた。一旦、オフィスに向かってるとこ。葵は?ミーティング終わった?」
「うん。終わった。大丈夫だった。お仕事も大丈夫そう」
大丈夫、大丈夫と自分で言って、緊張が解けたのか、なぜか急に涙がせりあがってきた。通りかかる人に見られないようにビルの壁のほうを体を向けた。
その途端、涙が落ちてしまった。
「そう。よかった」
優しい徹君の声が耳に響く。
「これから、友達と会うの?」
この声が聴きたかった。
そして、今すぐ抱きしめて欲しいと思った。
「うん。そう。まだちょっと時間があるから、お店、見たりしようかなぁと思って」
声が震えが伝わらないように、少し小声で返事した。
「葵?」
「ん? はい」
「大丈夫?」
ゆっくり確かめるように徹君が聞いてくる。多分、私が泣き声なのに気づいている。
「大丈夫。ちょっと今日、緊張してたみたい。徹君の声でほっとしただけ。……はぁ。おかしいね。もう大丈夫、あとは遊ぶだけだから」
徹君が私の声に耳をすませている。
「明日、楽しみだね。早く会いたい」と、なるべく明るく、続けた。
「ん。俺も会いたい。……後でまた連絡する。夜、携帯、そばに持っといて」
はい、はい、といって、電話を切ると、ちょっとして徹君からメッセージが届いた。
『今日、葵が泊まるのどこって言ってた?』
アンドリューと二部屋、予約をしてあるホテルの名前を返信する。
徹君は横浜で、パーティー会場のそばのビジネスホテルに泊まるらしい。
明日は二人で横浜に泊まる予定になっている。
ややこしいことは、もう終わりで、あとは連休を楽しむだけだ。
メッセージには、アンドリューからも浅草寺の写真付きで浅草を観光中、とのメッセージが入っている。
繭ちゃんと会ってから、夕食で合流するつもりだけど、東京観光を楽しんでいるようでほっとする。
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