婚活

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日曜の夕方、実家に顔を出して、父母と夕食を食べた。 母の家庭菜園の野菜のお裾分けを頂けるし、両親の様子も分かるので、ちょこちょこ顔を出している。 その時、父が紙切れ一枚のリーフレットを持ってきて、「これ、行ってみんか?」と言ってきた。 役場で作成されたらしいリーフレットのそのタイトルは「婚活・恋活応援イベント キノコ狩りで恋をゲット♡」だった。 キノコ狩りで恋をゲットって。。。 狩りとゲットをなんとなく絡ませているらしい、担当者の苦悩が垣間見れるネーミングだった。 遂に婚活を親から勧められるとは思ってもみなかった。あと5年位は、こういう直接的なプッシュはされないと思っていたのに、読み誤ったらしい。 「えーっと。婚活かぁ。私そういうのに興味無いんだよなぁ」とかわしてみる。 「そうかもしれんけど。これ、役場の事業で、地域おこしでやる事になってな」 父が、意図を説明し始める。 徹君の事は話していないし、まだ紹介するつもりもないのだけど、なにせ田舎だ。 噂話は母の耳に入っていてもおかしくない。 「もう一品」と言って和え物を作っている母の背中からは、伺いしれない。 父曰く、この企画は町での婚活イベント第一回なので、私に参加して、体験文的な紹介文を町の季刊誌とウェブサイト用に書いて欲しいと言う。 「だったら、それ、役場の独身の人がやったら良いんじゃない?」と言うと、父はさらっと 「部署の子に独身だから婚活イベントに行けなんて言ったら、セクハラだろう。あ、パワハラってやつか?」と返事をした。 その代わり、私に行けということらしい。 ここで付き合っている人がいるから、と言ったら、確実に紹介しなさいと言われるだろう。30歳を超えた彼女の両親に会わされるプレッシャーは相当だと思う。いつも彼氏を紹介するという今どきのフレンドリーな家庭なら、別に大した意味もないのかもしれないけれど、私は両親に彼を紹介したことなどない。 徹君は優しいから、頼めば挨拶するというだろうけど、変な圧力をかけたくなかった。 ただ徹君が好きなのだ。 それ以上を求めて、壊してしまいたくない。 「そんな、婚活にやる気がない人が行ったら駄目じゃない?」 なるべく断ろうとする。 「初回だし、友達と一緒に参加でもいいっていう企画だそうだ。地域の若い人の交流の場を広げたいっていうのと、Iターン、Uターンも視野に入れて、っていう話だから、ちょうどいいじゃないか」 父は何が問題なのかわからないという感じだ。 「葵は、文章を書くのが得意だろう?」 と小学生の作文を褒めるスタンスで薦めてくる。 母の耳には本当に何も入っていないのだろうか? はっきりとうんと言わない私に助け船を出すつもりか、母は、「じゃあ、アンドリュー先生を誘って行ったらいいじゃない? だって、葵、キノコ狩りとか、好きでしょう?アンドリュー先生にも珍しいと思うし。ねぇ?」と提案した。 確かにリポートを書くという名目とアンドリューを連れて行くという名目なら、あまり失礼にならないかもしれない。 「それでいいなら、行こうかなぁ」 何とかそれで手を打ってもらう。 父が、ただ紹介文を書いてほしくてこの話を持ってきたのか、それを建前に婚活をしてほしいと思っているのか、わからない。 普段、あまり口うるさくない両親だけど、心配されているのかもしれない。
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