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キノコ狩りの話をアンドリューにすると、案外乗り気だった。
婚活イベントだというのは、説明したが、「大丈夫。いつもお世話になっているから」と、私の微妙な立場を助けるつもりで来てくれるらしい。
返事をもらって、役場に申し込みに行く。
父に言えばそれで済んだのだろうけど、記事にするというのもあって、担当者に直接会っておきたかった。
地域活性課の担当者は、私より若い女の子で、「木下です」と挨拶してくれた。
すでに父から話を聞いているらしく、私が記事を頼まれて、アンドリューと参加するという旨を確認すると、にこやかに「よろしくお願いします」といった。
「あの。イベントで、最後に投票とか、カップルになるとかあるんですかねぇ?」
「いえ、今回は、キノコ狩りと、その後に取ったキノコを皆さんでお料理をしてもらって、その間に個人で交流してもらう、という感じで、お見合いパーティーみたいに格式ばったことはしない予定です」
「そうですか。実は、私自身も、アンドリュー先生も、婚活には興味がないんです。そんな二人が参加させてもらって、失礼じゃないといいなと思いまして」
そう先にお詫びしておく。
「あぁ、そうですか。お友達の連れ添いで参加という方もいますから、大丈夫ですよ。若い人の交流の場ということで」
担当の方にも、参加者の方にも、嘘はつきたくない。
「それなら、いいんですけど。でも、本当に婚活、頑張っている方には、誰が本気かわかりにくくって、ちょっとややこしいですよね」
だれでも参加オッケーなら、普通の地域のイベントと変わりない。婚活・恋活イベントだから、それぞれが相手を求めている、と安心して婚活できるのではないのかなぁ。
「うーん、そうですかね。初回なので、人が集まったらいいという感じではあるんですけど」と木下さんは申し訳なさそうに言う。
「いや、友達と参加できるっていうのは、本当にいいんです。一人じゃちょっとっていう人は多いと思うし」と言いながら、ふと頭に浮かんだことを言ってみる。
「私は、ちゃんと婚活に来てるよ、って印があったらいいのかなぁ」
木下さんはパッと目を輝かせて、「いいですねぇ。ハートのシールとか」といって、ハート形を手で作っている。
かわいらしい人だ。
「そうそう。いいと思います。本気だぞ!って!」
あはは。
女子二人で役場の片隅で盛り上がった。
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