婚活

6/21

4805人が本棚に入れています
本棚に追加
/312ページ
「俺、挨拶いってもいいけど」 徹君が真剣な顔でこっちを見ている。 徹君は優しいし、しっかりしているから、この話をしたら、そう言うかもしれないと思っていた。 「ありがとう。でも、いいの。うち、今まで紹介とかしたことないから、びっくりするし」 うちの親は、期待する。 徹君に変な重圧になるし、親の期待が外れた時に、私はどうしたらいいのか。 「友達と参加でいいって、言うから、アンドリューと行くの。婚活目当てじゃない人も友達の連れとかで参加するらしいから。私も担当者の人に、ちゃんと婚活には興味ないって伝えておいたし」と矢継ぎ早に説明した。 言い訳をするようで、気まずいこと、この上ない。 すこし間をおいて、「そう。断れない理由もわかる気がするけど、行ってほしくはないな」と静かに言った。 ぎゅっと喉の奥が締め付けられた。 いつも優しい人の、すこし硬い、怒ったような声は、ひどく私を不安にさせた。 でも、父には説明できそうもない。 すでに担当の方とも話が付いているし、疾しいことは一つもなかった。 「レポートするってだけだから」 どうしようもなく、言い訳の様につぶやく。 「ん。わかった」 全然納得したという風ではなかった。 私が徹君の「行ってほしくない」というお願いを聞かないということだけ、分かったのだろう。 徹君が仕事が残っていると帰ってしまった後、私は一人で洗い物をしながら泣いた。
/312ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4805人が本棚に入れています
本棚に追加