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「…とうさん、佐藤さん?」
「んん~。
っは!?
ごめん、寝ちゃった!」
「ハハ、寝てましたねぇ。ここからどっちですか?」
車は自宅までもう少しという広めの道路の脇に寄せてあった。
少し行った先の小さな道を右に抜けて、いくつかの民家を通り過ぎた林と畑に囲まれた古く小さい一軒家にたどり着く。
「ありがとうございました」
頭を下げるとトオル君は携帯を取り出して、「じゃ、週末時間が出来そうなら、連絡しますんで」と言った。
「?」
私、何を約束したんだろう。
十分程眠ったせいか、びっくりしたせいか少し酔いが醒めた。
「えっと、さっき家を見る約束しましたよね?」
「あ、そうか。本当にいいの? 忙しいのに」
そういえば、寝てしまう直前、古民家の修繕について、話をして、トオル君が様子を見てアドバイスしてくれるという話をしていた。
慌ててラインのIDを交換して、ついでに「岡田設計事務所 一級建築士 岡田徹」と書いた名刺を一枚もらった。もう一度お礼を言って、車を降りた。
家の前に立って、見送ろうとすると、徹君が車を切り返し終わって一度停止して、窓をあけた。
「寒いんで、入ってくださいよ。暗いし、入るまで見てるんで」
都会じゃ、マンションの入口に入るまで見送られた事はあるけれど、田舎で家に入るまで見守ってくれるというのは。。。
一瞬、甘いーーぃ、なんて思ってから、千鳥足の酔っぱらいだから心配されているのだと気がついて勘違いした自分が急に恥ずかしい。
「大丈夫だよ。ふらついてないし」
「いいから、早く」
「じゃ、お言葉に甘えて。おやすみなさい」
手を振って、お礼に頭を下げて、なるべくしっかりした足取りで、玄関へ入った。
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