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車から降りると、徹君が彼の車の外に立っている。
「おかえり」
まっすぐにこちらを見てる。
ただいま、と返事をする。
それ以上なんて言ったら、いいのかわからなくって、ただ突っ立っている。
徹君を見ていると、ただ抱きしめて欲しくなるから不思議だ。
怒っていたり、不安になったり、色々、言いたいこともあったのに。
「ごめん」
徹君が困ったように言った。
「うん」
私は強情だし、わがままだ。
「私、謝らないよ」と続けると徹君が猶更どうしていいのかという顔をしている。
「ぜんぜん、疾しいことなんかないんだもん。私、徹君のこと、大好きだけど、徹君のものじゃないからね。私が一人の人として、徹君のこと、大好きなんだから」
そう言うと、分かってる、と静かに徹君が返事した。
全部しっかり、言ってやる、と思ったのに、もう喉が詰まって、半泣きになってしまう。
「私、徹君に誰に会うな、とか、ここに行くな、とか言わないよ。徹君がずっと私を好きでいてくれたらいいのになぁと思っているけど、それは徹君の勝手だよ。私、たぶんずっと徹君のことを好きだけど、それは私の勝手だからね」
ボロボロ泣いているけど、もう全部吐き出してしまう。
徹君が近くに来て、優しく、抱きしめてくれる。
「うん。分かってる」と頭をなでてくれる。
「私、泣いたんだから。ずっと泣いたんだから。徹君が、いじわるするから。あんなの、子供っぽい。いじわるだ」
どちらが子供っぽいのかわからないくらい泣きじゃくって、徹君のTシャツに顔をうずめてる。もっと近くに行って、くっついていたい。
「ごめん」
徹君の困った声がする。
家の外でぎゃんぎゃん泣いて、抱きしめられていて、誰かに見られたら大変な噂話になるだろうけど、そんなことはどうでもよかった。
徹君に理解してほしくって、くっついていたくって、心が痛くて、どうしようもない。
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