婚活

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土曜日に実家へ顔を出す。 父はコンペへ出ることにしたことを、喜んでいるようだった。 「若いうちは色々挑戦するのも大事だろう」そう言って、夕食が終わると孫の遼にせがまれて、一緒にお風呂に入りに行った。 父がにぎやかな遼をつれて行って、ようやく落ち着いたダイニングで、義姉が「徹君、今度のお義父さんの還暦のお祝いなんだけど、家で仕出しを取るか、どこか簡単なとこで、いいっていうんだけど。気軽でいいっていうし、葵さんも呼ぶ?」と聞いてきた。 父は今年60歳で、来月、家族でお祝いをすることになっている。叔父夫婦も呼び、食事会でもするという予定だった。 葵は、兄夫婦とはもう顔を合わせていて、この間も遼をかわいがってくれたり、家族のイベントに呼んでもいいかと思う。 この間の話がなかったら。 葵の両親には紹介したくないという風だったから、うちの父にも紹介されたくはないのかもしれない。 田舎だから、すぐに付き合っているくらいの噂は飛ぶし、父にも別に隠してはいないのだけど。 「あー、どうかな」 はっきりした返事をしかねていると、「おじさんたちも来るし、葵さん、気兼ねかしらね」と優香さんが自分で話題を回収している。 兄が「なんだよ。葵ちゃんと喧嘩でもしたのか?」とつっこんできた。 「え?元気がないとおもったら、そうなの?」と優香さんまで聞いてくる。 「婚活イベントの取材に行くって言うんで」 かっこ悪さ承知の上で話した。 取材した内容を町の季刊誌に載せるというのだから、二人にも言っておいたほうが驚かないだろう。 「おじさん、俺たちのこと、知らないらしくって、葵に婚活イベント行くように頼んだみたい」と説明する。 「で、お前が落ち込んでるの?」と兄が揶揄う。 「うっさい。挨拶に行くって言ってんのに、紹介したくないみたいに言われたら落ち込むわ」 別に婚活イベントだけで落ち込んでいるわけじゃない。
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