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謝るタイミングを逃して、イベントの邪魔をしないように、イベントが終わったころを見計らって、葵の家に行った。
まだ出かけているようだったので、車で待っていると、夕方、葵が帰って来た。
車から降りて、スッと目の前に立つ葵の顔を見たら、ただ抱きしめたいと思った。
でも、子供っぽく嫉妬して、そっけない態度を取った俺に、葵は怒っているかもしれないし、あきれているかもしれなかった。
「ごめん」と謝ると、泣きそうな顔で、頷いて、「私は謝らないよ」という。
多分すごく怒っているんだと思う。
泣きそうな大きな目を見開いて、矢継ぎ早に「ぜんぜん、疾しいことなんかないんだもん。私、徹君のこと、大好きだけど、徹君のものじゃないからね。私が一人の人として、徹君のこと、大好きなんだから」と言った。
そういう大事なことを考えている子だ。
小柄な彼女の肩が震えている。
「分かってる」
俺の気持ちが伝わるようにゆっくり答えた。
半泣きになりながら葵が一生懸命言いたいことを伝えてくる。
「私、徹君に誰に会うな、とか、ここに行くな、とか言わないよ。徹君がずっと私を好きでいてくれたらいいのになぁと思っているけど、それは徹君の勝手だよ。私、たぶんずっと徹君のことを好きだけど、それは私の勝手だからね」
本当に大事な事をちゃんと考えられる聡明なこの人が、俺のことを好きで、大事な事をしっかりと伝えようとぶつかってくる姿が、無性に愛おしい。
とっさに抱きしめて、頭をなでてた。
「私、泣いたんだから。ずっと泣いたんだから。徹君が、いじわるするから。あんなの、子供っぽい。いじわるだ」
葵はしゃっくりを上げそうなくらい泣いて、俺を罵りながらも抱き着いてくる。
「ごめん」
俺のせいで泣いたと言われて、胸が詰まった。
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