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にやけっぱなしの私の手をもう一度取ると、徹君は向かいの山を見つめて、少しずつまた真剣な話をし始めた。
「仕事に優劣をつける気はないけど、正直、こういうのは一般受けがいいと思う。もしコンペ勝てたら、いい手土産になると思うんだけど」
「手土産?」
浮かれて、ぼーっとしていて、話についていけてない。
「そう。葵のご両親に挨拶に行くから」
「え。そ、そうだね」
現実味を帯びた話にどこまで徹君がこのことを考えてくれたのか、とびっくりする。
「紹介してくれるんでしょ?」
「うん。する」とうなずく。
「俺さ、こないだ、本当に悪かったとおもっているけど、あのイベントに葵が行くのがそんなに嫌だったわけじゃないんだよ。それより、親に紹介できないって言われたの、なんかショックだったんだよね」
そっと、徹君がつぶやき始めた。
「優香さんに、親に紹介って、そんな簡単なことでもない、って言われて、悪かったとおもったんだけど」
え?優香さん。とびっくりして徹君を見る。
「あぁ。あの時、兄貴たちに喧嘩したのかってバレて、言われた」
そうか。そんなことがあったのか。
「私が婚活とかいうから、皆さん、あきれてた?」と聞くと、「いや、それは、おじさんに頼まれたからいくんだって、二人とも分かってるから」と言う。
「そう。徹君。徹君はすごく素敵だし、紹介しても全然おかしくないと思ってたよ。……というか、素敵だから、お付き合いしているって紹介したら、親は期待するじゃん。私、30だし、それなりに親は考えていると思ったんだよね。それに、そんな彼女の親の期待みたいなので、外堀固められたら、嫌でしょう?」
「ん。葵が気を使ったんだって、考えたら、分かった。だから、ごめん」
うん。
「でもね、俺、はじめっから結構、そのつもりだったんだけど」
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