仰ぐ陽

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え?徹君の顔をまじまじとみる。 ここ最近、結婚のことを意識させることが重なって、思い立ったんだとおもった。 徹君はまだ28で、結婚相手を探していたわけではない。 「はじめって、どういう意味?ただ好きだから、お付き合いしてみよう、って感じじゃなかった?」 「んー、ただ好きだったのは、正解。でも、俺、葵の家のことを手伝ってたから、簡単な気持ちでは手、出してないよ」 「私の家?」 すこし話の先が見えないで、聞く。 「うん。あの家、いろいろ手伝うって言って、実際、いろいろ一緒にしたでしょ。もし、途中で俺が葵を好きだって伝えて、うまくいかなかったら、葵が困るでしょ。変な思い出がついちゃっても、簡単に引っ越しできるわけでもないし」 そういえば、そうだった。 「変なことになって、嫌な思いしてほしくなかったのに、葵に魅かれてしょうがないから、正直、戸惑ってた」 徹君は、くしゃくしゃと耳の上の髪を揺らす。 こっちまで照れる。 「確実に葵が俺を好きになってくれるまで、手ぇ出さないようにって、こっちは自制してんのに、ほかの男とやけに仲がいいから、焦ったな」 アンドリューとのことを誤解したらしい。 「葵のあの家への気持ちまで背負って、手だしてんだから、俺は始めから本気だよ。……おかしい?」 首をぶんぶん振る。 「おかしくない。うれしい」 駄目だ、私、こんな風に徹君が考えていてくれたなんて、知らなかった。 しっかりしている人だとは分かっているけど、こうして言葉にされると本当に、感激した。 徹君が笑って、「あ、このコンペが駄目でもおじさんに挨拶には行くから。そん時は、今まで創った家の写真でも図面でも、山ほど持っていくわ」と付け足した。 「何にも要らないよ。普通に真面目にお仕事してて、暮らしていける人だったら、だれでも、こんなわがままで、頑固な娘を貰ってくれて、ありがたいって言うよ。徹君なんか、素敵すぎて、崇められるよ」 本当、崇められる、そう思って、笑った。
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