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実家に顔を出した際に、父が予定を書き込んでいるカレンダーをちらっと確認する。
来週の週末は、日曜日の朝から地区のゴルフ大会と書いてあるだけで、土曜日はあいている。
多分、問題ない。
夕食を一緒に食べて、帰り際、なるべく自然に切り出してみる。
「あのさ、次の土曜日、また来ようと思っているんだけどさ。紹介したい人がいるから、連れてくる」
父と母が見ていたテレビから顔を上げた。
「あら。そうなの」と母がなんとか返事をしている。
「そうか」と父もつぶやいて、すぐ「そうか」と二回同じことを言った。
母は明らかに嬉しそうだ。「えぇっと、いつ頃、来る?お昼?午後なら、お夕食用意しましょうかね?」
「仕事があるから、その後来るつもり。お夕食、お願いします」
父がぼそっと、テレビに視線を移しながら「飲める人か?」と聞いた。
「あ、うん。普通に」
「そうか。ビールでいいかな?」と父が言う。
「うん。ビールでいいよ。すみません」
無性に緊張した。
若いころから、彼を自分の親に紹介している人は、こんなこと何でもないんだろうけど、私が付き合っている人を紹介するのは初めてだ。
誰と付き合っている、という話すら、あまりしたことがない。
「じゃ、土曜日にくるね」
なんでもないようなふりをして、自然に家に帰る。
多分、両親も、なんでもないようにテレビを見続けている。
それとも、私が消えた後、夫婦二人でワーワー言っているんだろうか。
謎だ。
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