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実家について、車を降りると徹君は一人で一瞬「ふぅ」っと息を吐いた。
こっちに向き直り「葵、いこか」と言った時には、もう落ち着いていて、背筋もすっとして、スーツ姿がものすごく男前だった。
この人は、大人の男の人だ。
ついていったら大丈夫だ、と思わせる力があった。
「ただいま」
玄関を開けると、「いらっしゃい」と母がいつもより少しよそ行きの恰好で迎えてくれた。徹君をみて、目を輝かせている。
徹君が「こんにちは。葵さんとお付き合いさせていただいている岡田徹です」と頭を下げた。
もうそこで、私は、こそばゆくって、ほっぺたが緩んで、溶けてしまいそうだった。
母が玄関に座って、「葵の母です。いつも娘がお世話になっております」と挨拶すると、すでにお茶の用意がしてある客間に通してくれた。
「お父さん、すぐ来るから」
母がお客様用のセットでお茶を淹れた。
「岡田さん。お家は、このちかく?」
母が徹くんにお茶を出しながら話し出す。
「はい。実家も町内です。実家は工務店してます。今は、中学校の近くのアパートで一人暮らしですけど。」
「そう。あら?もしかして岡田工務店さん?」
母がすぐに気が付いたようだった。地元では、実家が商売をしている人は、身元が分かりやすい。
「あ、そうです」
「まぁ。そう。……あれ?葵、小学校一緒だったわよね? 同級生?」
驚いたように、母が私のほうを見る。
「あー、同級生はお兄さんの樹君。徹君は3学年下」
私が答えると、母は一人、考えを巡らしている。
「あら。そう。懐かしいとおもって。確か、小学校の時、お兄さん、お誕生日会にも来てくれたでしょう。仲のいいグループだったじゃない?中学の時もよく塾の帰りにお迎えに行くとおしゃべりしてたりしてなかった?」
母がそんなことまで覚えているとは思わなかった……。
小学校の頃は、ただの男女グループのお遊びだったけど、中学校の時は、私が片思いしていて、ちょっとでも一緒にいたくって、必死に色々、お迎えまで樹君とおしゃべりしていた気がする。
「え、そうだねぇ。そんなこともあったかな」
き、気まずい。
気まずすぎて、徹君の顔が見れない。。。
母からいきなり、こんな爆弾を落とされるとは、思わなかった。
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