挨拶

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その時、父が顔をだして、畳に正座すると、先ほど母とした挨拶をもう一度する。 母の時より、すこし徹君の声に緊張が多く混ざっているように聞こえる。 母が父に、「岡田工務店さんの弟さんなんだって」と言うと、先ほど徹君が差し出した手土産のケーキをさっそく出すといって、母がパタパタとキッチンへ立った。 父は徹君に気楽に座りなおすように勧めると、「岡田工務店さんか」と徹君に向き直った。 「お兄さんが継いだの?」 「はい。今は兄と父でやっています。僕は、叔父の設計事務所で設計士しています」 「へぇ。そう。あぁ、もしかして市内の岡田設計事務所?」 父は徹君の叔父さんの事務所まで知っているようだ。 「ええ、そうです。よくご存じで」 「そうかね。設計士さんか」 父はゆっくりお茶を飲んだ。 「工務店さんの息子さんで、設計士さんなら、葵、家の相談ができていいな。……御存知でしょうけど、この子、古い家を買ってね」と父が笑う。 「うん。家のことで、色々お世話になってるの。ほら、網戸とか直してもらったり」というと、「あぁ。そうだ、いやいや、お世話になります」と父が軽く会釈した。 「いえ、僕も、もともと古い家の修繕にも興味があったんで」と徹君が受けた。 母がケーキをお皿に移してもってきて、父の隣に座った。 少し私の家の話や、実家のことなど、家の話で世間話が進んでいく。 父も母も、いろいろと話題を振っているけど、徹君がしっかり受け答えしてくれているので、雰囲気はいい。 まぁ、私が誰を連れてこようと、良い年の娘が好きで付き合っているのだから、文句や非難はしないだろうけど。 徹君の好青年っぷりで、かなり印象がいい感じだ。 徹君は、私より三学年下だけど、それについても特に言及もない。 世間話をつづけながら、いつ本題を切り出すのか?と思い始めた。 良い感じで世間話が続く分、そのままおしゃべりして日が暮れそうだ。
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