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徹君がお父さんを見て頭を下げる。
「お嬢さんと結婚させてください」
はっきりとした、迷いの無い声だった。
父はしっかり徹君を見つめて、その言葉を聞くと私のほうを見た。
「葵が、そうしたいのなら、それは喜んで」とゆっくり言う。
「はい。私も徹君と結婚したいと思っています」
なんとか言葉にする。
両親に結婚の挨拶をするというのは、相手が実の両親であっても緊張するものなのだと初めて知った。
会ったこともなかった彼女の両親に挨拶した徹君の緊張は計り知れない。
「そうか。じゃ、娘をよろしくお願いします」
父が頭を下げると、母も一緒に深々と頭を下げた。
「あぁ、おめでたい。よかったわね。じゃ、ゆっくりして行ってほしいし、お夕食の準備、しましょうかね」
母が言うと、父が私にも手伝いに行くように促す。徹君が父と残されて大丈夫なのかと心配したが、徹君はちらっとこっちをみて、大丈夫だという風に頷いた。
台所で、小皿を出したり、すでに準備されているものを盛り付けしたり、いつもお客様が来た時にするように、夕食の準備を手伝う。今日は母がお刺身の盛り合わせやら、唐揚げ、サラダなどいろいろと準備をしてくれているようだ。
「お母さん、揚げ物これからだから、葵は、お刺身盛り付けてね」と言われて、刺身の柵を切っていく。
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