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「徹君、素敵な人ねぇ」
母が揚げ物をしながら、嬉しそうに話してくる。
「うん。そう」
とても素敵な人だけど、自分のお付き合いしている人をなんと言うべきなのかよくわからない。
「驚いた?急に結婚するって言って?」と聞いてみる。
「そうねぇ。まぁ、そろそろ紹介してくれても、とは思っていたけど」
母が何気なく言ったので、驚いた。
「え、お母さん、私と徹君が付き合ってたの、知ってたの?」
「名前は知りませんよ。ただ、葵ちゃん、良い人がいるんでしょうって、近所の人に言われたから」
やはり、田舎の情報網はすごい。
「でも、まぁ、驚いたわね。素敵だわ。娘の名前をあんなデザインにするなんて。あんなことされて、結婚に文句の言える親なんかいないわよ」
「そうだね」
さすが名をつけた親だけあって、さっき、徹君が説明したときも、デザインの名前からコンセプトまで理解するのが早かった。
「名前の由来の葵って、そんなに派手なお花じゃないのよ。でもね、ずっと太陽を向いて咲くんだって。お母さんも、葵が本当にそんな感じで頑張ってる気がするわ。徹君、よく見ているわね」
母が揚げ物をしたまま、淡々と言う。
母に頑張っていると言ってもらえて、急に胸が詰まって、泣きそうになる。
「いい人に出会えて、良かったわねぇ」
「うん」
母は唐揚げを揚げ終わると、てきぱきと
「さ、葵、手を動かして。レモン切って、盛ってね」
と山盛りの唐揚げの乗ったバットを私に渡してきた。
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