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むぎゅーっと私をだきしめて、おでこにチューして離すと、思い出したように
「あ、お義母さん、昔のこと、言ってたね」
と言い出した。
どの昔のこと?
今日はさんざん昔話をした。
「兄貴と仲良くしてたって」
徹君がおもしろそうに話している。いまだにこの話題は、どぎまぎしてしまう。
「……うん。よくお母さん、覚えてた、と思ったよ」
「それさ、俺も覚えてる。葵のお母さんに言われて気が付いた」
え?どういうこと?
「俺さ、時々、兄貴の塾の迎えにお母さんにつれて行かれてたわけ。買い物のついでとかに。で、時々さ、車から同じ女の子と二人でしゃべってるのが見えるわけ。あの塾の帰りに兄貴が他の女の子と二人でしゃべってるの見てないから、きっとあれが葵ちゃんだったんだよな」
「本当?そうかぁ。見られてたのか。恥ずっ」
あの頃の私、樹君のことが大好きで、どちらかのお迎えが来るまで少しでもおしゃべりできるのが楽しみだった。
私は懐かしい思い出だけど、それを聞かされた徹君は嫌だったかもしれないと思って、慌てて付け足す。
「徹君、昔の話だよ。あー、懐かしいなっていう。なんか、嫌な気分だったらごめん」
徹君はふっと笑うと、
「いや、嫌じゃない。なんか腑に落ちた。聞けて良かった」
と言う。
「え?腑に落ちたって?」
私が聞くと、徹君はすこし首をかしげた。
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