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「昔過ぎて、あんまり覚えてなかったし、葵だと分からないくらい、どんな顔の子とか覚えてないんだけど、その時さ、その女の子がさ、すごく楽しそうっていうか、すごく兄貴のこと好きなんだなーって顔してて、いつかあんな風に俺のこと好きになってくれる子ができたらいいなぁって思ったことだけ覚えてた。あれ、葵だったんだとおもうと腑に落ちた」
びっくりした。
そんな風に、あの頃の徹君が見ていたなんて。
あんまりにびっくりしてなんて言っていいのかわからないでいると、徹君の手が頬に触れる。髪を耳にかけてくれた。
「葵。俺のこと、好きだろ?」
突然、甘い声でそう言われて、徹君の目をじっと見る。
「……そういう顔してる」
「してる?私?にじみ出てる?」
にやけた顔でもしているのかしら。そうだとしたら、なんか恥ずかしい。
「ははは。すげーかわいい顔してる」
徹君は酔っている。
かなり甘いことばかり言う。
「俺も葵ちゃんのこと、すげー好き」
ニコニコして、また甘いことを言う。
「ははは。うれしい。じゃ、それ、徹君が私のこと、好きだっていう顔?」
それなら、かなり幸せな顔だ。
「多分そう。分かりにくい?」
「うんん、なんとなくわかる。楽しそうな顔」
「楽しいな。確かに」
徹君はニコニコして私をまた抱きしめると、「葵にはずっとそういう顔しててほしい」と言った。
どういう顔かわからないけど、徹君を好きな顔ってことなんだろう。
私も自然に笑っているのかな。
「っあ、でも、俺、葵が困ってたり、怒ってたり、正直、泣いてる顔もかわいいと思う」
え?
こないだ、泣いて鼻水でてたよ、私。
ちょっと徹君のセンスを疑う。。。
優しいから言ってくれるだけだと分かっているけど。
「行こ、葵」というと、抱きしめていた私をぐっと抱き上げる。
急に歩き出して、びっくりする。
「え、徹君、どこ行くの?」
「葵の色っぽい顔が見たくなった」と低い声で囁いて、寝室へ私をつれて行った。
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