挨拶

13/21

4805人が本棚に入れています
本棚に追加
/312ページ
でもこう思い出してみると、夜の終わりに徹君がどういう顔をするのか、私はよく覚えていない。大概、私はもう朦朧としているか、目を瞑ってしまっているか、多分徹君にしがみついていて、それどころじゃない。 どんな顔をするのだろう。 そんな事を考えていると、余計にその指にもう少し、どうにかして欲しくなる。 徹君の胸に顔を埋める。 指先が腰に下がる。 もう徹君にわかって欲しくなって、息を漏らすのを我慢するのを止めた。 「葵?」 あぁ、もう恥ずかしすぎる。 もうちょっと寝ようって言われたのに、背中を撫でられただけ、スイッチ入ってる私。 顔を埋めたまま、ちゅっと徹君の肌に口づけてみる。 もうどうかわかって下さい。 くすっと徹君が笑う。 わ、笑われた!? 「葵、したいの?」 半分寝てた人にしてはしっかりした声。 寝たふりで、誂われていたらしい。 あー。もう、もう。 「意地悪。徹君がなんかしたくせに」 「俺、まだ何もしてないよ」 あっけらかんと言ってくる。 「した」 なんと説明していいのか分からない。 ちょっとむっとして言い返すと、徹君が、ははは、と笑って 「した。バレたか。葵ちゃんがそういう気分になってくれないかなぁ、と」 クスクス笑っている。 「そういう気分になってくれた?」 色っぽい目で、見つめられて、そんな事を言われたら、もう駄目だ。 「うん。なった」 返事するか、しないかのうちに徹君がくるっと私の上に覆いかぶさる。 首すじにキスが降ってくる。 朝の光の中で抱かれるのは、背徳的だ。 すぐに息があがる。 私を抱く徹くんの肩がカーテンから差し込む朝の日差しに眩しい。 男の人の体だと思う。 はっと、さっき考えていた、徹君はどういう顔をするのかという事を思い出す。 顔をみると、徹くんは激しい事をしているのに、熱の入った色っぽい目で私をじっと見ている。 目が合うとふと笑って、「どぅした?」と聞いてくる。 「徹が最後どういう顔してるか、知らないなと思って」 そのまま思っていたことを言うと、一旦動きを止めた。 「は? 何、それ、恥ずい!」 「葵、それ、恥ずいから、もう、こうね」 と言うと、一旦身体を離して、ぐるっと私を後ろ向きにする。 後ろ向きにされるのは、朝の明るい部屋では、ものすごく恥ずかしい。 徹君は自分の顔を見せてくれないつもりらしい。 「これ、私が恥ずかしい」 と反論しても、 「それが、良いんだよ」 と笑って背中にキスをする。 自分の息継ぎに必死になりながら、徹君の息使いに耳をすませる。 私が溺れているのの何分の1でいいから、徹君が私に溺れてくれていたらいい。
/312ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4805人が本棚に入れています
本棚に追加