挨拶

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「あ、あぁ、ありがとうね」と後ろから言われて、顔をあげたら、徹君のお父さんがお茶とお茶請けをだしてくれていた。 お茶を勧めると、「樹と同級生なんだってね」とお義父さんはそこから話始めた。 自己紹介をして、今やっている仕事の話なんかをする。 徹君が合間に話してくれるので、それほど緊張せずに話ができた。 穏やかな人で、にこにこして話を聞いてくれた。 一通り自己紹介が終わると、徹君がさらりと、「葵と結婚することにした」と言った。 うちの親への挨拶に比べると、各段にあっさりしている。 「あぁ、そうか。それは、おめでとう」 徹君のお父さんは頭を下げてくれた。 慌てて、「不束者ですけど、どうぞよろしくお願いします」と深く頭を下げて挨拶をした。 あんまり驚かないところからして、私のことは少しは聞いてくれていたらしい。 「素敵な人が徹にも見つかって、親としては嬉しい限りです」と言ってくれた。 「それで、これから、どうするんだ?」 「んー、まだ葵のご両親に挨拶に行ったばっかりだから、決めてないけど、俺は結納が終わり次第、一緒に住みたいと思ってる。式はするつもりだけど。準備がいるだろうから。」 「え、結納?するの?」 両家顔合わせのお食事会くらいでいいと思ってた。 「あ、それはする。こっちからの義理だから」と徹君が言い切った。 徹君のお家は、すこし私の実家に比べて今どきだから、結納なんて、徹君は考えてもないだろうと思ってた。 うちのお父さんはしたがりそうだ・・・。 はっと気が付いて、徹君に向き直る。 「うちのお父さんになんか言われた?」 昨日、お父さんと二人にしたから、なにか条件を言われたのだろうか。 徹君が返事をする前に、「徹は次男だけど、一応、お嫁に来てもらうってことだから、こちらから結納はやらしてもらうってことになるね。葵さんのご両親に迷惑じゃなかったら、こちらで準備させてもらいます」とお父さんも微笑んでいる。 「いえ、迷惑ではありません。むしろ喜ぶと思います。お気遣いいただいて、ありがとうございます」 徹君がニコニコしている。 お義父さんの前で、急にこの話をだしたのは、私が「そんなのいい」とか言わないようにという作戦だったのだろう。 多分、うちの父になにか言われている。
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