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葵には男同士の会話だから言わないといった会話の内容は、ただ葵のお父さんの父親としても優しさでしかなかったと思う。
葵をキッチンの手伝いに行かせると、お義父さんはゆっくり話し始めた。
「岡田君、葵は気が強いよ。子供のころから、大人がびっくりするぐらい芯が強くて、頑固でね。賢い子だったから、プライドが高いし。……その代わり、色々考えている。親としては、もっと気楽なほうが生きやすいと思うんだけど。本当に、一人、必死にお日様に向けて顔を上げてる小さな花みたいな子だよ」
そういいながら、お義父さんは先ほど渡したデザイン画に視線を落とした。
「岡田君。葵は、岡田君の前で泣くか?」
ぽつりとお父さんが聞いた。
男親に娘さんを泣かせたと言うのはものすごく心苦しい。
一瞬答えに困っていると、お義父さんが「僕はね、もうずっと本当に泣いたとこなんか見てないよ。おばあちゃんのお葬式くらいか」と続けた。
「働いてた会社が倒産したってときも、ただ大丈夫だって言ってたよ。……家を買うって言いだした時もね。信用金庫の人にね、きっと女一人じゃ、どうこうって、あの子にはずいぶんきついこと言われたんだろうけどね、ただ申し訳ないけど、保証人になってくれって頭下げに来たよ。」
「そういう子だからさ。旦那さんは、葵が泣きたいときに、我慢しなくてもいい人だといいなぁと思って。……もちろん、娘をあんまり泣かすようなのは困るけど」
「はい」と頭を下げるしかなかった。
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