外車の男と真珠の女

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昨日、一緒に夕飯を食べて、葵が仕事用のファイルを忘れて行った。 今日も塾だろうからと、朝、仕事の前に、届けに行った。 ファイルを忘れて行ったことは、メッセージしてあったし、いつ家に遊びに行ってもいいような仲になっている。 葵がいなければ、玄関に置いていけばいいだけのことだった。 いつものように、葵の家に車を停めようとすると、黒い高級外車が止まっているのが見える。 こんな朝早くから家に来ているなんて、誰だろう。 っていうか、この時間だったら、昨夜から、という可能性が高いんじゃないだろうか。 ナンバープレートが東京のものだと気が付いて、一瞬で鉛を飲み込まされたような感覚に陥る。 元カレが課長になって、再会したという情報が頭の中をすごいスピードで回っていく。仕事のできる三十代半ば。高級外車を乗り回していてもおかしくない。 田口先輩も外車を乗り回しそうなタイプだと思う。前に見た時は国産のハイブリッド車だったと思うけど、買い換える可能性は充分ある。東京で会ったときは、もうすっかり邪魔をする気はないという風だったけど、それまではずいぶん葵の気を引こうとしていた。 これは、バーンと玄関を開けて、「お前は誰だ?」的なことをするところなのか? 自分がこんなに情けない思想の持主だとは思わなかった。 葵とはうまくやっている。俺はものすごく惚れてるし、葵もそうだと思う。 この外車には、99%、なにかの理由があるんだろうと思う。 1%くらい、もしかして、と思うのだけど、その1%の破壊力がとてつもなく強い。 ふらつく思考をまとめようとして、あ、女友達だってこともありうるな、と閃いた。 大きな外車は男が乗るものだ、なんてステレオタイプを押し付けたら、それこそ葵は憤慨するかもしれない。 そうに違いない。 きっとお友達なのだ。 99.5%、大丈夫。
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