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玄関をあけて、「葵、おはよう」と言ったけど、返事がない。
奥で水音がするから、葵はお風呂場にいるのかもしれない。
土間の奥へ進んで、「おはよう。居る?」となるべく自然に声をかける。
ガラっと居間のふすまが開く。
「朝早くから、何?」
っと、Tシャツに下着姿の男が乱れた髪をかき上げながら出てきた。
え?
多分、この時の俺、ものすごい顔をしていた。
『99.5%=何でもない』が、だぁーっと下降して、俺は葵を信じてるから『50%=何でもない』、客観的に見たら『10%=何でもない』くらいに一瞬で目減りしたと思う。
ぐちゃぐちゃの思考をどうにかかき集めて、「あの。どちらさまですか」と言ってみる。
女友達の可能性はあっさり消えた。
田口先輩でもない。
30代半ばくらいで、元カレの可能性だけ急上昇している。
背は俺ほど高くないけど、ガタイはいい。
眠たそうなその男は俺の質問に答えず、「葵!人が来た」
と、葵を呼び捨てにして呼んだ。
呼び捨て。
「あの。すみませんけど、どちらさまですか?」
苛立ちながらも再度、丁寧に聞いてみる。
その答えが返ってくる前に葵が玄関にルームウェアでパタパタと出てくる。
「大ちゃん、なんでそんな恰好で玄関に出ちゃうわけ?」
が、葵の第一声だった。
『だいちゃん。』
ちゃん呼び。
変な緊張で胃が痛い。
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