4834人が本棚に入れています
本棚に追加
「えぇっと。最近は、交際ゼロ日婚とか、あるじゃんね」
ほかの悪態は全部おいておいて、当たり障りのない回答を答えてみる。
「は?漫画の見過ぎだろ」
「そうかなぁ。お見合いだって、似たようなものじゃない?」
「お前は、お見合いしたかったのか?」
「うんん。違うけど。半年でも、閃くことがあるんだよ。この人だって」
大ちゃんに、言葉で心の機微を説明しても分かってくれそうもない。
あえて単純な「閃き」に託してみたけど、どうも伝わってはないだろう。
大ちゃんには恋がわからない、というのではなくって、きっとものすごく分かっているんだろうけど、それは言葉のようなものでとらえられてなくて、もっと本能的なんだと思う。
テレビを見ながら、納得いかないという風に首をかしげている。
「大ちゃんさ、最近、美和ちゃんにあった?」
「は?なんで?」
「なんでもない。美和ちゃん、どうしてるかなぁーと思って」
「知らん」
美和ちゃんは、大ちゃんの多分初めての彼女で、何回か付き合って、別れて、腐れ縁で、そのうち結婚するのかなと思っていたら、大ちゃんがインドネシアに海外赴任になっているうちに別の人と結婚してしまった。
お母さんも、私も、大ちゃんは美和ちゃんが出戻るのを待っているようだ、と感じているけど、誰も本人に聞けたことがない。
お盆やお正月、近所なのでまれに顔を合わせることがあるけれど、いまだに大ちゃんは美和ちゃんを平気で「美和」と呼ぶ。
美和ちゃんも少し困った顔をするけど、直させない。
お母さんは、「美和ちゃんに子供でもできたら、あきらめるんじゃない?」とあきれるように言っていた。
最初のコメントを投稿しよう!