外車の男と真珠の女

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*** 今朝のことは、引きずらないようにと思っているのに、なんとなく焦燥感が胸にこびりついている。 葵は俺のことを好きでいてくれて、順調に結婚に向かっている。 頭で分かっていても、彼女の家の庭に高級外車が止まり、玄関に男の靴があるというのは、本当に心臓に悪い。 仕事で市内に出ていて、宝石店が目についた。 婚約指輪をまだ葵にあげていない。 葵の好きなデザインのものを買ってあげたくて、プロポーズでは用意しなかった。 結納で納品するものの一つだから、今度、二人で買いに行こうと思っている。葵は、ちゃんとした上品なもので、デザインさえ気に入れば、どこのブランドの物とか気にしないタイプだけど、優香さん曰く、絶対にいいものをおしゃれなところで買うべきらしい。女子会で、絶対に指輪は見せることになるし、どこで買ったのか?とか話すらしい。 義姉は、そういうことに鋭い。 「葵さん、徹君が買ってくれるならなんでもいいです、なんて言いそう。よくないからね。徹君、ちゃんと買ってあげなよ」と釘を刺された。 そこまで言われたので、デートがてら、すこし有名なブランドのお店まで遠出して買うつもりだ。 でも、今まで、婚約指輪なんて、しっかり見たこともない。 昼休みになんとなくリサーチに覗いてみることにする。 結婚に向けてなにかするのが今の俺の精神衛生上にも良さそうだと思う。 ついでで悪いけれど、父の還暦祝いにネクタイピンでも買おう。
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