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「いらっしゃませ!」
明るい店内にショーケースが並ぶ。
女性店員が数名、ケースの向こうから挨拶をしてくれていた。
「こんにちは」
軽くお辞儀して、店内に入り、ショーケースを眺める。
真正面にやはり、婚約指輪らしい、ダイアモンドの指輪が並んでいる。
値段も色々。
大きな石から、小さいものまで、色々だ。
葵は、どういうのを選ぶんだろう。
「なにかお探しですか?」
と、店員さんに声をかけられた。
「えっと、父の還暦祝いをさがしているんですけど。ついでに、指輪をちょっと見させてもらってもいいですか。出さなくっていいので」
言いながら顔を上げたら、知っている顔だった。
「岡田君?」
「あ、はい。えっと、小野町さん?」
すこし茶色の髪をまとめ上げて、宝石店のユニフォームを着ている彼女は、耳と首にセットの真珠のジュエリーをつけている。販売員のコスチュームという感じだ。
驚いたという風に、こちらを見上げているけど、俺のほうが驚いた。
高校の時、少し付き合った女の子の親友だった子だ。
大学に行ってから、地元に戻って同級生と遊ぶ時に顔を見たし、話したことがある。
付き合ったことはないし、そういう関係になったこともないけれど、飲み会で、ちょっと分かりやすいアプローチはされたことがある。
正直、気まずい。
「懐かしい。変わってないね」
と、気さくに話しかけられる。
昔のことに一瞬でも気まずい思いを抱いたこと自体にすこし罪悪感を感じる。
本人も酔っていたし、昔の話で覚えてもいないのだろう。
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