外車の男と真珠の女

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「指輪は、どういうのをお探しですか?」 と聞かれた。 「あ、ただちょっと見たかったただけだから、良いよ。ちょっと勝手に見てていい?」 ここで買うつもりがないのに、いろいろ説明してもらうのは気が引けた。 少しだけ、色々なショーケースを見る。 婚約指輪にもいろんな種類があるようだ。 「父の還暦祝いがあって、ネクタイピンとかある?」 あまり指輪を見るのに時間をかけないようして、そばに控えていた小野町さんに声をかける。 宝石店と言っても、半分、ギフトショップが併設している。 ネクタイピンじゃなくても、万年筆とか、なにかあるだろう。 「タイピンは、こちらです」 店員として、別のショーケースへ案内してくれる。 一つ、二つ、めぼしいものを見つけて、ギフト用の万年筆も見てみる。 「還暦祝いだったら、ゴルフされる方はゴルフ用品に名前を彫るとかもできますよ。車のキーリングに名前とかも」 と、にっこり笑った。 色々と見てみたけれど、邪魔にならないシンプルなタイピンにすることにする。結納や結婚式でつけてくれたら良いと思う。 会計は他の方が担当してくれ、店を出ようとすると、小野町さんが気を利かせたのか、ジュエリーやギフトのパンフレットを数冊渡してくれた。 「袋に、名刺も入れときますね」 「あ、はい。じゃ、どうも。ありがとうございました」 婚約指輪を選ぶ葵が見たいと思う。 店を出て、路上で、一人、にやける。 葵にあって、俺はずいぶんおかしな男になったと思う。
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