川遊び

3/10
前へ
/312ページ
次へ
しばらくして、川西さんが用意してきた野菜のことでレイコさんを借り出したので、一人になってしまった。 足を水に入れて限界まで待ってから、温かい石の上で温めた。じんわり足の裏を温めながら、なにか水の中にいないか目を凝らす。 「葵さん、魚釣りしません?」 そう言われ顔をあげたら、徹君が立っていた。 「え、出来るの?」 「俺はBBQ担当なんですけど、木元があっちで釣りしてるんで。教えてくれますよ。あいつ上手いし」 ぼんやりしていたから気を使ってくれたらしい。 「徹君ー、早くー。火が凄いことになってる〜」と日野さんがBBQ台から徹君を呼んでいる。 「あ。ん、ありがとう」 「葵さん、そういうの好きそうだし」 どういうイメージだよ、と言い返したかったけど、確かに。 狩猟採集民族なのかも。 山菜採りも好きだし、子供頃行った潮干狩りも好きだった。 そして、はっと気がついた。 さっきから、徹君に「葵さん」って呼ばれてる。 他の友達は、呼び捨てだったり、葵ちゃんや、葵さんも多いから、気が付かなかったけど、徹君に名前で呼ばれるのは初めてだと思う。 なんか、仲良くなれたみたいで、うれしい。 BBQから少し離れた河辺で木元君は釣りをしている。 近くに行って、「なにか釣れそうですか?」と聞くと、チラッとこっちを見て、「んー、無理だろうけど、ニジマスねらい。でも実際ありえるのはフナ」という答えが返ってきた。 「ニジマスいいね。この川にいるの?」 「この川、よく子供のキャンプイベントでニジマス掴みしてるんで、夏は結構逃げたやつがいるんですよ。んー、自生してるやつもいるのかなぁ?」 そうかぁー。 何回か木元君がリールを巻き直して投げるのを見てたら、「やります?」と誘ってくれた。 やり方を教わって、恐る恐る投げる。 下手過ぎてあんまり遠くへは飛ばなかった。 教えてもらいつつ、リールをゆっくり巻いて、もう一度。 投げようとしたら、「っ、あっぶね!」と後ろから声がした。 慌てて振り向くと、木元君も振り向いて「あ、来れたんですか。田口先輩」とそこに立っている男の人に話しかけた。 ネイビーのポロに、ハーフパンツにサンダル履きの長身で、顔立ちが整っている。 「すみません、当たりました?」 恐る恐る聞くと、その人は「ギリセーフ。ビビったー」と笑い、「あれ?あおいさん、ですよね? 覚えてます?」と付け足した。
/312ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4826人が本棚に入れています
本棚に追加