川遊び

4/10
前へ
/312ページ
次へ
田口という名前とにっこり笑うそのハンサムな顔に浮かぶ面影ですぐに思い出した。 「えっと、生徒会長だった田口君?」 「はい、お久しぶりです」 田口君は、生徒会長といっても私と同年ではなく、一つ学年が下で、私達が3年のときに2年生で新生徒会長になった人だ。 元々、そういうふうに期待されているような子で、私が2年生の文化祭実行委員会なったとき、彼も1年生の代表だったと思う。 新生徒会長になった田口君はかなりキリッとした壇上では優等生だったけど、普段廊下では友人とゲラゲラ笑って遊んでいるような気のいい子だったように思う。 田口君を前にして、どうも落ち着かないのは、彼がずいぶんオシャレなイケメンに成長しているせいなのと、昔、後輩に言われた一言があるから。 美術部の後輩のアンナちゃんに彼女の恋の相談を受けていて、「先輩は?彼氏いないんですか?」というから、絶賛片想い中だった私は苦笑いで、いないねぇ〜と返すと、アンナちゃんが思いがけないことを言ったのだ。 「えー、先輩、うちのクラスで人気ですよ」 「は?」 「ほら、お昼の放送、先輩が出ると、男子があおいちゃんっ出たーって。特に田口なんですけど。今日は髪の毛がくるくるしてるから、プールの後だ!とかいって、張り切って見てますよ」 「なんか、いじってるじゃん、それ」 すこし天然パーマかかっている私の髪の毛は、濡れるとカールがはっきりする。中学生で、ストレートパーマもしてなかったし。 私は放送委員長で、お昼のテレビ放送を良く担当していた。 自分の給食もそこそこに校内のニュースやお知らせをする、ミニテレビ番組なのだけど、それを給食の最中に全クラスでつけている。 読書週間なら国語の先生の朗読や、美化週間なら美化委員長からのリサイクルへのプレゼンなど、内容は様々だったけど、学校全体へのニュースや告知をするのは放送委員会のメンバーだった。 あの頃、背が小さい割に、そういう放送委員会の活動や、テストの成績で目立っていた。 ゆるキャラ扱いされていても目くじら立てることでもないんだけど、田口君が先頭に立って盛り上がるっていうのが意外だった。 クラスで騒ぐようなら、もっとも本気の好意ではないんだろうけど、ほぼ知らない下級生が私で盛り上がっているっていうのはくすぐったい気がした。 まぁ、本当に笑い者にされてただけじゃないといいんだけど。。。
/312ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4826人が本棚に入れています
本棚に追加