逢う。

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田舎で暮らすには車がないとやっていけない。 地元に戻ってすぐに購入した小さめの中古車を走らせて、まだ住み慣れない我が家に帰る。 大学進学と同時に出た町に、こういう形で帰って来るとは思わなかった。 子供の頃から成績だけは良くって、自分も周りも私は良い大学へ行って、地元を出て、何かになるんだと思っていた。 それが何だったのか、いまいち分からないままだったけれど。 東京の有名な私立大学で国際経済を専攻し、旅行もいっぱいして、イギリスへ留学した。留学経験、学生時代の旅行経験を生かして、高校、大学生向けの留学斡旋やホームステイをメインにアフリカや南米などへの珍しい個人旅行を扱う会社へ就職した。 子供の頃の世の中の役に立つ仕事みたいな、壮大な夢とは少し離れている気がしたけれど、仕事があるだけありがたいと思えるくらいには大人になった。 それが、あっけなく4年で倒産。 倒産後、語学を活かした仕事を慌てて探して、翻訳業務のある派遣事務になって、中堅の企業で働いていた。普通の派遣事務より時給は良かったし、仲の良い社員さんもいたけれど、正社員ではなかったし、頑張ってもうまくいかないことも多かった。 いろんなことが重なって、少し生き方を考えた。 東京は楽しいけど、三十年後の私はどうしているのだろう?とか。 シンプルなことなのに、一人でちゃんと生きて行くのって、難しい、とか。 自分なりに頑張っているのに、地に足がついていないような。 上手いことやっているようで、結局、居場所がどこにも無いような。 そんな時に、実家の父が入院した。
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