川遊び

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「BBQ、おいしかった。外で食べるのはいいよね」 隣に座った田口君と、とりとめのない会話をした。 そしたら、急に田口君が「あおいさん。中学の時、俺ファンだったんですよ」と言い出した。 え。 ファンって。 「なにそれ、ファンって」 「え? ファンですよ。あおいさん、かわいいなーって」 「はぁ、どうも。別にかわいくはなかったよ」 私は、目立っていたかもしれないけど、かわいいとか憧れられるタイプじゃなかった。良くクラスの男子にもちょっかいを出されたけど、本当にかわいい子にはそういうのしてなかったし。 「ははは。ハムスターとか、小動物てきな」 そーですか。 そんなもんだろうね。と、ふてくされる。 「今度、ご飯行きません?」 びっくりして、顔を見たら、まさに王子の笑顔だった。 ドキッとした。 これは、モテるんだろうな、と思って返事をせずに「田口君、東京に彼女いるんでしょ?」と聞くと、さらっと「彼女、いませんよ」と言いのけた。 のアクセントが王子じゃない。 関係性の曖昧な子は何人かいるんだろうな。 「ゲスいね」と軽く睨むと、 「ははは、手厳しい」と余計に甘く笑った。 「嫌だよ。せっかく田舎で、心穏やかに暮らそうと思ってるのに穏やかじゃなくなりそう」 きっと今、女の子がクラっとくるような甘い目をしている田口君の顔を見ず、流れる水を目で追う。 この腹黒い王子にどうこうされなくても、もうすでにさっきから心穏やかではない。 向こう岸が気になるのに、見れない。 川面ばかり見つめている自分をどうしたらいいんだろう。 恋愛はしたいけど、昔から勝ち目のない試合に出るほど根性もないし、だからって子供の時のようにずっと片想いを楽しめる歳でもない。 「あんまり穏やか過ぎても、そのうち退屈しますよ」 「んー。退屈したら、その時はご飯くらいは行くわ」と適当に答えると、「ははは、じゃ、あおいさんが退屈するの、待ってます」と田口くんもいい加減に笑った。
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