4826人が本棚に入れています
本棚に追加
「BBQ、おいしかった。外で食べるのはいいよね」
隣に座った田口君と、とりとめのない会話をした。
そしたら、急に田口君が「あおいさん。中学の時、俺ファンだったんですよ」と言い出した。
え。
ファンって。
「なにそれ、ファンって」
「え? ファンですよ。あおいさん、かわいいなーって」
「はぁ、どうも。別にかわいくはなかったよ」
私は、目立っていたかもしれないけど、かわいいとか憧れられるタイプじゃなかった。良くクラスの男子にもちょっかいを出されたけど、本当にかわいい子にはそういうのしてなかったし。
「ははは。ハムスターとか、小動物てきな」
そーですか。
そんなもんだろうね。と、ふてくされる。
「今度、ご飯行きません?」
びっくりして、顔を見たら、まさに王子の笑顔だった。
ドキッとした。
これは、モテるんだろうな、と思って返事をせずに「田口君、東京に彼女いるんでしょ?」と聞くと、さらっと「彼女は、いませんよ」と言いのけた。
はのアクセントが王子じゃない。
関係性の曖昧な子は何人かいるんだろうな。
「ゲスいね」と軽く睨むと、
「ははは、手厳しい」と余計に甘く笑った。
「嫌だよ。せっかく田舎で、心穏やかに暮らそうと思ってるのに穏やかじゃなくなりそう」
きっと今、女の子がクラっとくるような甘い目をしている田口君の顔を見ず、流れる水を目で追う。
この腹黒い王子にどうこうされなくても、もうすでにさっきから心穏やかではない。
向こう岸が気になるのに、見れない。
川面ばかり見つめている自分をどうしたらいいんだろう。
恋愛はしたいけど、昔から勝ち目のない試合に出るほど根性もないし、だからって子供の時のようにずっと片想いを楽しめる歳でもない。
「あんまり穏やか過ぎても、そのうち退屈しますよ」
「んー。退屈したら、その時はご飯くらいは行くわ」と適当に答えると、「ははは、じゃ、あおいさんが退屈するの、待ってます」と田口くんもいい加減に笑った。
最初のコメントを投稿しよう!