川遊び

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ずっとこっち側に二人でいるのはどうかと思って、「じゃ、そろそろ戻るね」と立ち上がる。 途端、手を掴まれてビクッとして振り返る。 「連絡先教えて下さい」 眩しそうに目を細めながら、それだけ言う。 「え、あぁ。手、離して」 内心、コケるほどびっくりした。 こんなにグイグイ来られた事は滅多にない。 いつかの忘年会の酔っぱらい以来な気がする。。。 でも田口君は酔ってない。 「教えてくれるなら離します」 クスッと笑った。 そんなにもったいぶることでもないから、ラインのidを教えて、先に戻ろうと飛び石を渡る。 ご飯くらい、同級生の男の子と食べに行くことだってあったし、なんてことない。 ただ王子、色気があって、ビビった。 酔っぱらいの三十代には少し刺激が強い。 そして、飛び石を渡って戻ったら、向こう岸にはもう1題待っている。そちらのほうが難題。 川の真ん中の飛び石が少し離れている。さっきはあまり考えずにジャンプして、セーフだったけど。 ジャンプしてさっきみたいにふらつくより、大きく足を開いてぴょん、が安全かな? そんな事を考えて立ち止まったら、向かいの石の上に徹君が来ていた。 「さっき、ここで転けそうになったでしょ。危なっかしい」 恥ずかしいとこ見られてた。 足が短いのもばれてるし。 「酔ってるのに、飛び石、危ないよ」 どっちが年下かわからないことになる。 すみません。 っていうか、少し本気で怒ってる?  呆れられたのかしら。 なんか顔をしっかり見られない。 ザッと水音がして、気がついたら徹君は川に入っている。 え? そのまま私の立つ石のそばに来ると、両手を差し出して「はい、運びます」と言った。 「え、重いよ」 「一瞬だから、大丈夫。早く」 本気? 急かすようにジェスチャーするので、そのままぎりぎりまですすんで、徹君の肩にそっと腕を回す。 いい? と言われたかと思ったら、ぐっと抱きしめるように持ち上げられて、くるっと反転して、隣の石に着地した。 離れる前の一瞬 一瞬だけ、徹君にぎゅっとする。 気づかれないくらいの一瞬。 「ありがとう」 すぐになんでもなかったように離れて言った。 本当はものすごくドキドキした。 徹君の肩、がっちりしてて、男の人だった。 私、一度川に落ちたほうがいいんじゃないかというくらい、身体全体が熱い。 でも、なんでもないような振りをして、残りの飛び石を渡る。 すぐ後に徹君がいると思うと、背中が熱を帯びる。
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