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夕方、荷物を車に詰め込むと、それぞれの車に乗り込む。
田口君が、送りましょうか? と声をかけて来てくれたけど、行き同様、徹君に乗せてもらうことにする。
日野さんも橘さんもそれぞれの車で帰るのだけど、視線が痛いように感じたのは気の所為かな。
そんな事は全然気にしてないらしい徹君は私が車に近づくと、助手席を開けてくれた。
お礼を言って乗り込んで、木元君が後部座席に座る。
帰り道も行きの逆回しで、木元君のうちでキャンピング用品をおろして、お別れしてから、うちへ送ってくれた。
二人になると、さっきの飛び石での件が思い出されて気まずい。
なにか話そう、と話題を探すのに、なんだか今日は色々ありすぎて頭が回らない。
「なんか今日は、ありがとう」
少しはぐらかしてお礼をいう。
チラッっとこっちを見たけど、返事もなしに「田口先輩と会ったの、久しぶりで愉しかったですか?」と聞かれた。
「うん。久しぶりって、ほぼ中学以来じゃない? 中学でもそんなに関わってないし。今日、面白い子だと思ったけど」
ふーん、と聞いてきたわりには返事は素っ気ない。
私達は一体、なんなんだろう。
友達の弟っていうカテゴリーからは出て、友人になったと思うんだけど、それ以上になりきれない。
もしかしてチャラい王子に連絡先を聞かれたのが少しでも気になるのか? と期待もするけど、さっきの「ふーん」では、そうでもないらしい。
気になるのは徹君の方だ。今日一日、日野さんに猛アピールを受けていた。
しっかり始めっから「先輩」扱いされて、あれは酷く言うと「ばばぁは、ひっこんどけよ!」という威嚇だった気がする。。。被害妄想かもだけど。
「日野さん達、かわいらしかったね」
言わないでおこうと思ったのに、変な嫌味言っちゃった。
嫌味だとも気が付かないかもだけど。
「んー、そう?」
「そう」
こっちが少し悲しくなるくらいに。
威嚇も含めて、素直に徹くんへの好意が溢れていたように見えた。
私みたいに混乱もしてないし、ごまかしたり、大人ぶったりせずに。
私がお礼を言って車を降りると、いつものようにそのまま帰ると思ったら、徹君は車を降りた。
「大丈夫?」
車内で少し口数が減った私を気にしたのか、ポケットに手を入れて聞いてきた。
夕暮れになりかかる空気の中で、この人はどうしようもなく私を惹き付ける。
手を引っ張って、家に入れて、抱きついたらどう思うだろう? と不埒な考えが一瞬頭をよぎる。
自分でもはっきりしないこの感情をそのままに、わけのわからない世界にこの人を連れ込んでしまいたい。
臆病な私はそんな考えに一瞬で蓋をして、少し離れた位置のまま、「大丈夫。ありがとう」とだけ言って手を振った。
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