逢う。

6/6
前へ
/312ページ
次へ
実家の母は数年前から糖尿病の診断を受けていたし、父の入院は正直、かなりショックだった。 結果、父はすい臓がんの初期で、手術を受けて今は無事に回復しているのだけど、この一件を機に私は地元に戻ることにした。 実家から少し離れた県内の市に将来的に実家を継ぐだろう兄がいるので、父母がどうしても心配だということでもなかったのだけど、兄は基本、常に仕事に忙しいし、親の事がなくても、何か自分の生き方を変えるなら今じゃないかという気がした。 田舎で自分にできる事を精一杯、自分なりにしながら、一人で暮らして行けないだろうか。 なんとなく中古物件のサイトで、地元に手頃な物件を探し始めて、一ヶ月もたたぬうちに数件の家を見学に行った。 私は、一旦決めると結構思い切りはある。 こういう事に関しては。 その中の1軒、小さな、よく言えば古民家、悪く言えばただの古い中古物件が今の私の城だ。 貯金と3年前に亡くなった祖母にもらったお金を合わせて頭金にして、ローンで中古のこの家を買った。 父と母ははじめ、女が一軒家を買うなんて結婚を諦めるようだと反対したが、今後仕事の場所にしたいという理由に渋々理解してくれ、結局ローンの保証人にもなってくれた。 30歳の今になって、地元で古い一軒家とそれなりのローンを抱えて、新しい人生のスタートを切った。 本屋さんでの変な出会いが、心の奥をかき混ぜる。 この地元でキラキラしていた15歳のころの私。 その頃の私の世界の中心だった人のことを急に思い出した。 懐かしい。 15歳の私に、今の私はどういう風に見えているかな。
/312ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4826人が本棚に入れています
本棚に追加