アンドリュー

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話し方には人が出ると思う。 アンドリューとあれこれ話していて、ようやく懐かしい感じがするのは、留学中に仲良くしていたクラスメートのサムとどこかしら似ているからだと気がつく。 物腰が柔らかいようで、会話のペースはポンポンとタイミングが良い。 多分、もっと仲良くなったら、毒舌を吐きそうなタイプ。 私は好きで一緒に遊ぶだけで、学校や教育委員会のものではないから、気楽にして良いという事はメールでも説明してあったけど、もう一度説明する。 『でも、もちろん学校の人と困った事があったら、手助けするし』 『本当に、ありがとう。助かる』 『こちらこそ、しばらくぶりに英語でちゃんと話せて嬉しいし。あ、もちろん日本語の練習相手になった方が良かったら、そう言って』 こういった英語の先生は、日本語に興味があっても学校内では英語と決まっている。 『うん。来る前、日本語、少しだけ勉強してきたから、分からない事はこれからお願いすることもあるかも』 『田舎だから、都会に派遣されるのと違って、日本語を使うチャンスはいっぱいあるよ。そのへんのおじいちゃん、おばあちゃんは英語話さないから』 『それはいいね。楽しみ』とにっこり笑うと可愛らしい。 これだけ人懐っこい子なら、きっと人気の先生になると思う。 『アオイは、ロンドンに留学してたんだよね? スコットランドにも住んでた?』と聞かれてびっくりする。 『え、遊びにいったりはあるけど?』 何年も前、懐かしい大学時代を思いだす。 『ふーん、先生がスコットランド人だったとか?発音がちょっとスコットランドっぽいと思って。』 思い出が色づく。 『あぁ。高校の時の英語の先生がスコットランド人だったかも。あと、スコットランド人の元カレがいたから』 懐かしい。 2歳年上のトーマスは、ロンドンで知り合った大学院生で、はじめての彼だった。留学中から、遠距離をして、計二年弱付き合った。 長期休暇を彼の地元のグラスゴーで一ヶ月ほど過ごした事も数回ある。 随分前のことなのに、しっかり私に残っているのか、と思うと少し感傷的になる。 そう思って微笑むと、アンドリューはコーヒーを一口飲んで、カップを置くと、ふわっと耳の上の茶色の髪を指先で、揺らす。 ひと呼吸置いて、『今、彼氏いるの?』と聞いてきた。
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