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 浴衣の買い物をした数日後、仕事から帰ると突然、田口君から今月中、地元に帰ることがあるから、食事でもどうかとお誘いのメッセージが来た。 BBQで会った時には、王子とあだ名のつく田口君に手を摑まれて連絡先を聞かれたときはドキッとした。 だけど、女の子ならだれでもいいんじゃないか?という軽さが垣間見え、こちらも軽くあしらってもいいのだろうと、忙しいという理由で、さっとお断りした。 断ったのこれで二回目。 前回と同じく、お断りのメッセージを返すと、すぐに既読になって、いきなり電話が来た。 あぁ、これは出ないとだめ? メッセージを返した直後では、携帯がそばになかったとか、言い訳にならない。 「もしもし?」と恐る恐る電話に出る。 「あおいさん。忙しくても人はご飯はたべるじゃん?」 名乗りもせず、開口すぐに言われた。 この人、生まれてからずっとハンサムだと、こういうことが言えるのか・・・。 「え、えっと。今月、仕事多めなの」 言い訳する。 「忙しいって、新しい英語の先生と遊んでいるんでしょ。俺とは遊んでくれないくせに」 「遊んでる?誰に聞いたの?」 「田舎だから。うわさ」 田舎、怖い。 それ以上に東京にいるのに、地元の情報を耳に入れているあなたが怖いよ。 「お世話係頼まれて、仲良くしているだけだよ」 まぁ、楽しいから、遊んでいるといえば、遊んでいるけど。 「はぁ。俺も仲良くしてほしいなぁ」と茶化すように続ける。 電話で耳元でそんなこと言われたら、ドキリとする。この間、中学校以来の再会をしたばっかりなのに、本当にこんなチャラい人だったのか。 「ははは。今度みんなでまたBBQとかいいね」と、はぐらかす。 「俺は、あおいさんと二人でって言ってんだけど」 田口君が言うと、なんだか意味深。 「あ、あそべません」 「つれないなぁ」と息を吐く音がする。 色っぽい間を置くのが上手い。 「ねぇ、酔ってる?」 「飲んでるけど、酔ってはないね」 酔っていないと出ない程度の色気が出てるけど? 早く切り上げたい。 なんか変なオーラが出ている、あの子。 「まぁ、いいや。じゃあね」と曖昧なうちに、さっさと電話を切る。 この人は一体何を考えているんだろう。東京にいるのに。地元で遊べる子だって、あの様子じゃ、簡単に見つかるだろうし。 それにしても、噂話がたまに地元に戻って来る位の田口君に届いているのが、恐ろしい。
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