5/6
前へ
/312ページ
次へ
*** 日曜日の夜は、たまに実家に食事に呼ばれる。 実家には親父が二世帯住宅で兄夫婦と住んでいて、義姉の優香(ゆうか)さんが作ってくれる夕食に呼ばれ、甥っ子の(りょう)と遊び、父と兄と少し世間話やら、仕事の話をする。 一応、二世帯住宅で、キッチンも2つあるのだが、2年前に母が亡くなってから、父は大体、兄夫婦と食卓を囲んでいる。ほぼ毎日一緒なので甥っ子は父にすごく懐いており、父は孫にかなり甘い。孫の存在は、父の母が亡くなった喪失感をかなり補ってくれたと思う。 今日も遼は、早々と夕食を食べ終わって、父の膝の上に座っている。 大人は、世間話を続けていると、優香さんが気になる事を言う。 「あ、そういえば、新しい英語の先生、来たね。こないだ言ってたパパの同級生の葵さんが英語が出来るから、お手伝いしてるんだって。この間、仲良く買い物してたよ」 葵さんが越して来て、知り合った頃、兄夫婦に兄の同級生が地元に戻って来たと話してあった。 葵さんが中学の頃、兄に想いを寄せていた事は優香さんは知らないし、兄が気づいていたかさえも分からない。 「へぇ。葵ちゃん、すごいな。昔から、頭良かったから」と兄がちらっとこっちを見た。 兄には、隠し事ができない。 「英語でさぁ、あれくらいお喋りして、笑ったり出来たら、すごいなって憧れちゃった。何処でも旅行にいけそうよね」と優香さんはのんびりしてる。 「新しい先生って、中学校の先生か?」 父が口を挟む。 「そうだと思いますよー。結構かっこいい男の子でしたよ。女の子に人気になりそう」 兄がまた俺の方を見た。 「ま、きっとお世話係頼まれて、葵ちゃんは仲良くしてんだろ? エライよ」 言わなくても分かっている事を念押しながら、少しこの状況を楽しんでいるように笑った。意地が悪い。 父や優香さんがこの空気に気づかないように、「そうなんだ」と適当に相槌を打って、その場を凌ぐ。 かっこいい外国人と仲良くしてるって、どういう『仲良く』なのか。 スーパーで一緒に買い物って、どういう事だよ。 頭の中は、情けないくらい子供っぽい気持ちで埋まっていく。 帰り際、靴を履いていると、玄関まで出てきた兄貴は、腕を組んで、「葵ちゃん、人気あるからな」と言ってきた。 聞こえていたけど、「は?」と言い返す。 「グズグズしてると、取られるぞって言ってんの」 「うっさい。色々あんだよ」と噛み付いてしまう。 いくつになっても兄貴とは子供っぽい喧嘩をしてしまう。 「はぁ、お前、なんか考えすぎなんじゃねえ? もうちょっと単純でいいんだよ」 良い加減なアドバイスを投げられて、帰路に着いた。
/312ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4823人が本棚に入れています
本棚に追加