夏祭り

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「葵ちゃん。来てたんだ」 樹君が軽く手を上げながら声をかけてくれた。 反対の手は、小さな男の子の手を握っている。 樹君や徹くんの面影のあるかわいい子だ。 「うん。樹君、お子さん?」 そう、とクシャっとその子の前髪をいじった。 いいお父さんって感じ。 ほっこりしちゃう。 すると斜め後ろにいた女性がこちらに会釈した。 男の子がその人の浴衣を掴んだから、樹君の奥さんなんだろうと察しがつく。 こんばんは、と会釈を返す。 「うちの」 樹君が照れたように紹介する。 すらっとした美人さん。 でもニコッと笑った感じが優しそうな笑顔で、素敵だった。 私より、ちょっと若いかな。 「佐藤葵です」 もう一度頭を下げて、アンドリューを紹介し忘れていた事に気がつく。 「あ、こちら、新しく来られたALTのアンドリュー先生です」とアンドリューにふると、アンドリューも日本語で「はじめまして。アンドリューです」と挨拶した。 たどたどしさが可愛いい。 樹君がはじめまして、と手を出して、握手する。なかなかスマートな挨拶ぐあい。 奥さんは、「ハローって言ってごらん?」とはずかしがる息子くんに話しかけている。 それを見たアンドリューは息子くんに近づいて、かがみ込むと「ハロー。アイム、アンドリュー」と自分に指差してゆっくり言った。 息子くんは奥さんの浴衣に半分隠れてしまった。 可愛らしい。 「あぁ、もう」と奥さんが笑っている。 でも完全に隠れてはいないから アンドリューのことが、気にはなるようだ。 私もアンドリューの隣にしゃがみこんで、アンドリューをさして「アンドリュー」それから私を指さして、「あおい」と続けた。 もう一度、指さしながら、「アンドリュー、あおい」と続けて息子くん指さすと、ちょっと間をおいて、「リョウ」と小さな声が返ってきた。 「Hello, Ryou」とアンドリューが小さく手を振る。 「ハロー」と小さな声でリョウ君が答えた。 可愛くって悶える〜。 奥さんはニコニコして、フフフと樹君と笑い合っている。 良い家族!  樹君は、むちゃくちゃイケメンではないけど、雰囲気が昔から、かっこいい。この年になって、砕けたオシャレ感は磨きがかかっている。 奥さんは白地に淡紫色の花柄の浴衣で、派手でないのに、明るい雰囲気の美人だ。 憧れの夫婦感が半端ない。 樹君に会って、私の片思いはちゃんと過去の物になってるって分かったけど、さすがに奥さんに会ったら変な感じだろうなと思っていた。 けど、案外普通だ。 自分でもびっくりするくらい、普通。 素敵な同級生の奥さん。 幸せそう。 それにリョウ君みたいな、こんなかわいい男の子がいたら、見ててこっちまでニコニコしちゃう。
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