夏祭り

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リョウ君がすっかり慣れて来た様子なので、立ち上がると、ヨーヨー釣りをしていたお客さんが移動して、その影から法被(はっぴ)を着た人がこちらに近づいてきた。 「こんばんは」 徹君。 こうして慣れてしまうと、徹君の声は樹君とは少し違って、聞き分けもつく。 ハーフパンツにTシャツのラフな格好に、青年団のボランティアだと分かるように、赤い法被を着ているようだ。 「お仕事、してるね」 ヨーヨー釣りに目をやると、「葵さんもやりたい?」とにっこり笑った。 「え、いいの?」 子供向けに用意したものだろうけど、私は、未だに、ヨーヨー釣りも金魚すくいも、大好きだ。 綿あめとか、かき氷も。 「ん。いいよ。たくさんあるし」 そういえば、リョウくんもさっきから、しゃがんだままのアンドリューにむけて、ブンブン、水ヨーヨーを振り回している。 アンドリューに声をかけると、リョウくんと遊んでいたアンドリューが立ち上がる。 「徹くん、新しい英語の先生。アンドリューです」 徹くんにむけて、今日何回目かの紹介を繰り返す。 アンドリューがペコリと日本風にお辞儀すると、 「Hi.」と徹君は、その場で軽く手だけ上げて答えた。 アンドリューにも『こちらが、トオル。家の事とか手伝って貰っている友達。イツキの弟。』と手早く英語で紹介する。 アンドリューは徹君の法被を指して、「いいね、祭りって感じ」とジェスチャー交えて話しかけた。 徹君は英語は大丈夫なのか?と思って見てると、徹君も英語にジェスチャー混じりで、ありがとう、浴衣もいいね、なんて返している。 私は男の人の英語力はどうでもいい。 ただ、対等に会話しようとする心意気みたいなのを持っているのが大事だ。 ここは日本だし、英語が全く話せなくても臆することなどないのに、外国人とのコミュニケーションを恥ずかしがりすぎる人、英語へのコンプレックスが強すぎる男の人は私は少し合わない。 英語圏の人だって英語のみしか話さない人が多い。 徹君も樹君も、それほど英語が得意ではなさそうだけど、臆さずアンドリューに向き合っているようで、感じがいい。 アンドリューと徹君はお互いのお祭りらしい格好を褒めあっていたけど、気がつけば、私の浴衣姿は徹君にスルーされている。。。 髪をアップにして、大きめの髪飾りもして、可愛くしてきたつもりですけど。 スルーかよ!  馬子にも衣装、くらいはコメントあっても良いだろうに、スルー。。。
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