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飲み物をビールから白ワインのグラスワインに変えて、マネージャーかオーナーらしいカウンター前の店員と少し会話をしながら食事をつまんでいると、突然「こんばんは」と背後から話しかけられて、その声にドキリとして振り向いた。
本屋で先日会ったトオル君が立っていた。
「っはいぃ!?」
びっくりして変な声が出て、高めのバーチェアから落ちるかと思った。
「こないだ、本屋でお会いしましたよね?」
トオル君は落ち着いた声で尋ねると、しっかりこっちを見ている。
あの時の私の失態ったらない。
ひと呼吸おいて、社会人の礼儀正しさを瞬時にとりもどして、その節は失礼しました、と頭を下げた。
「兄の知り合いの方ですよね?」
「はい、同級生です。間違えちゃってすみません」
目の前に立つトオル君は、すらっと背が高く、シャツにカジュアルなジャケットを着ている。オシャレだ。
しっかりしているトオル君を目の前にすると、あぁもう、こないだの私、この人にはかなりやばい人に見えただろうなぁと思う。
普通の人です。
決してやばくない人です。
そう証明しようと、落ち着き払った雰囲気を精一杯だしつつ、挨拶をする。
「佐藤葵です。樹君と小学校が一緒で。中学はクラスが別ですけど。トオル君にも小学校の時、会ってますね」
「はぁ。さとうあおいさん」
覚えているわけもなく、少し困った顔をしている。
「はは。覚えてないですよー。トオル君、小さかったし。樹くんとか皆でグループで遊んでいる時に顔を見たくらいですし」
そうですか、といいながら、ちらっと奥のグループ席を確認して、「仲間と仕事の打ち上げなんですけど、もう仕事の話は終わったので、一緒にどうですか?」と誘ってくれた。
知らない人のグループに、食べかけの皿をおいて参加するのも、持っていくのも気が引けて、やんわりとお断りした。
「嬉しいけど、もうちょっと頂いて、帰るので」
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