夏祭り

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家族連れがヨーヨー釣りに並んだので、邪魔にならないように、徹君たちにお礼をいって、アンドリューを連れて、その場を離れた。 少し離れるとアンドリューがちらっと振り返って、こっそり『あの人はいいね』というので、焦った。 『え、どっち?』 徹君か樹君、どっちかのことか、わからない。 『一人は結婚してるからね。もう一人は…‥』と言いかけて、止まってしまった。 言葉に詰まっている私をみて、アンドリューはからかうように言葉をつづける。 『なに?もう一人は、アオイの?』 ギクッとして、見上げると、アンドリューがニヤッと笑っている。 からかわれたと気が付いて、おい!とラムネを持った手で、肩を押してやる。 『もう一人は……ストレートだよ。』と嫌味に付け足す。 『はは、そりゃ残念』と軽く笑って、両手を挙げて降参のポーズをする。 そんなふざけた会話をしながら、心の中で『私の』だったらいいのにと思った。 夏の夜はまだ浅いのに、いやに風の匂いが濃い。
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