夏祭り

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アンドリューを連れて、地区の実行委員会のテントへ移動する。 この機会にアンドリューを挨拶させておいたほうがいい人はたくさんいる。 見覚えのある顔の何人かにアンドリューを紹介していると、近所のおばさんがやってきて、体育館の展示を見てくるようにと勧めてくれた。 そういえば、母も生け花の展示に、一点出していると言っていた。 まだ花火には少し時間があるから、アンドリューと生け花を見て回ることにする。 体育館へ行く途中、ちらっと徹君たちがいたほうを振り返ると、青年団のまとめ役の方たちが、お手伝いにお酒の差し入れをしているところだった。 母の作品は賞はついていなかったけど、きれいにまとまっていた。 公民館でやっている生け花教室は母の唯一の趣味だと思う。 子供のころから、いつも玄関には季節の花が飾ってある。 そのせいか、私は生け花はできないけど、一輪挿しや花瓶に季節のものを飾るのが好きだ。 祭りには来ないと言っていた母に、生け花をみたよ、とメッセージを入れる。 すぐに、「あら、そう。よかった?」と私と同じくらいシンプルな返事が返ってきた。 日本らしい物には何でも興味を示してくれるアンドリューは生け花も写真に収めていた。 ぐるっと回って、再度外に出て、屋台でかき氷を買って立ったまま食べているうちに、花火が始まった。 中学校の裏手の丘から打ち上げられる花火は、それほど数は多くないけれど、近くで見れる分だけ火花が降ってくるようなインパクトがある。 しばらく次々と上がる花火を見つめて、空気に混ざる火焔のにおいをかいでいた。 夏祭りも花火もどうしてこうも、心を揺さぶるのか。 なにか懐かしくって、わけもないのに、泣きたくなる。
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