夏祭り

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ナイショ話みたいになって、拗ねたらしい。 内容は言えないから、誤魔化すようにさらっと「何って、ハグだよ。バイバイの」と答える。 「永遠の別れでもないじゃん。いつもしてんの?」 あぁ、違うけど、とカルチャー講座的に「いつもじゃないよ。でも、しばらく会ってない時とか、誕生日パーティーとか、特別な時もハグするんだよ。今日は、お祭りで着付けもしたし。お礼もあってのハグ」と説明した。 「あぁ、葵さんがアンドリュー、着付けしたの?」 「うん。男の子の着付け、初めてだから、動画見て研究してやったんだー」 ちょっと自慢げになったのに、徹君の反応は薄く、へぇ、くらいだった。 徹君はふっと空を仰いで、ため息をつくと、「ぅあー。やっぱ、乗ります。行こ」と、訳のわからない事を言って、駐車場にむかう。 え、始めから送って、って言って一緒に来たのに忘れているんか?  徹君、酔ってるな。 後を追いかけて、「始めから、乗せてくって言ったじゃん」と、停めた私の車へ誘導しながら、呼びかける。 「あぁ、そうでした」 車に乗りこみ、運転しやすいように、下駄からサンダルに履き替えて、エンジンをかける。 「実家に行く?? アパート? っていうか、徹君のアパートってどこ?」 一人暮らしをしていると聞いていたけど、たまには実家へ帰ることもあるらしい。 「アパートは、あっち。中原のコンビニのある方ですけど」 ってそんなに遠くないじゃん。 余裕で、歩けるね。いいけど。 「じゃ、そっちね」と車を出す。 「酔ってるね、徹君」と運転しながら聞くと、「いや、ちょっとだけ。ビール頂いたんで」と窓の外を見ている。 「酔ってるっていうより、焦ってる」と言ったようだったから、「え?」と横を見たけど、徹君は窓の外を見ているだけだった。
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