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縁側の月
古い玄関を開けて、居間に上がってもらう。
居間には縁側がついているから、そこから庭に出れる。買っておいた来客用のサンダルを自分のサンダルに並べる。
ビール用のグラスとつまみになりそうなものを探してお盆にのせて持っていく。もうお祭りで一通り食べてきたから、買い置きしてあった燻製チーズ、お漬物とかだけだけど。
縁側に並べると、蚊取り線香を焚いた。
私はすぐに蚊に刺される、そして腫れる。
電気の虫よけをつけているけど、念のため。
そして、縁側の窓を大きく開ける前に、キャンプ用のランプを取り出してきて、庭の隅に置く。
居間の電気を豆電球のみにして、ふすまをしめた。
これで虫はキャンプライトのほうへ魅かれて行くだろう。
こんな田舎で育ったのに、虫だけは本当に駄目だ。
これくらいしないと安心できない。
縁側は月の明かりと、居間からの障子を通した豆電球の薄明りで十分に手元は見える。
花火のパックの説明を見ていた徹君も、私の厳重な準備を見て、「虫対策?」と聞いてきた。
「うん。刺されるとひどいし、苦手なの」
今日も実は虫よけシールを浴衣の襟とすそに貼っている。
「シールも貼ってるんだ。いる?」と浴衣のすそをめくって、虫よけシールを見せてあげる。
100均で買った、子供っぽいクマのシール。
くすっと笑われたけど、気にしない。見えないところに貼るんだから。
「あれば、ください」というので、シールを持ってきて、徹君のTシャツにつける。首の後ろにウサギをつけてあげる。
少し距離が近くって、心臓がうるさい。
これくらいで焦ってどうするんだろう。
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