縁側の月

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虫よけが完了したら、縁側に腰かけて、ビールをグラスに注いで二人で乾杯した。 夕方から、歩いていたから、冷えたビールがのどに心地よい。 「はぁ、いいね」 「ん」 数口静かにのんで、持ってきたろうそくに火をつけ、庭石の上に固定する。 月明りとキャンドルで、小さな庭が特別な場所になる。 徹君が隣にいる。 「花火、しようか」 手持ち花火をもって、そっとろうそくの火に近づける。 シュワ―と青い炎が飛んで、煙が目に痛い。 徹君も立ち上がって、同じタイプの花火に火をつけた。 くるくると火花を動かす。 「きれいだねー」 「煙い!」と徹君は風上に移動して、私に並んだ。 何本か手持ち花火をしてから、徹君が大きめの花火を少し離れたところに設置して火をつける。 一瞬、庭が光にあふれた。 今日、お祭りで見た花火には及ばないけど、結構な華やかさで、きれいだった。 ただ、隣に徹君がいるから、お祭りとは違う緊張感。 二人になってから、ずっと心臓が躍っている。 もう一つ、大きな花火に火をつけてくれる。 ビールを片手に縁側で見学する。徹君も導火線に火をつけると、私の隣まで下がって、縁側に座った。 先ほどよりも大きめの炎が上がる。金色のシャワーが庭に落ちた。 「すごいねー。いいな、花火は」 ビール片手に、楽しんだ。 私、浮かれている。 ビールを一口、飲み込むと、アンドリューに言われた言葉が脳裏をよぎる。 go and get him  誤魔化せないほど惹かれているのに、こちらから告白するような勇気はない。 樹君に恋していた15歳の私と変わらず、友達になって、楽しくって、それ以上を期待して壊すことがとても怖い。 また一口グラスに口をつけて、手持ち花火に火をつける徹君の横顔を見上げる。 酔い始めた、私の眼には、花火を持つ腕がどうも色っぽく見える。 私は変わらず臆病だけど、精一杯片思いしていたあの頃とちがって、一晩だけでもこの人を自分のものにできるなら、友情をこわしてもいいんじゃないかと思うほどは、はしたなく、大人になった。
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