縁側の月

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仕掛ける、とはどうすればいいのか。 年上なんだから、そういう手の一つや二つ、思いついてもいいと思うのだけど、何にも浮かばない。 今日だって、精一杯浴衣でおしゃれをしていったのに、アンドリューと服装をほめあっていたくせに、私はスルーされている。 手持ち花火を手に取って、火をつけながら、あれこれと考えても妙案が浮かばない。 花火でLoveとか書いてみたら、気が付くかしら?とおもったけど、アイデアが寒すぎてやめた。 ゆらゆらを手元を揺らして、揺れる花火を見つめる。 緊張もあって、それを誤魔化して飲んでいるうちに酔いも回って、ただ花火をしながら、ぽうっと徹君の様子を窺うしかなくなっている。 大体の花火が終わって、縁側で座ったまま、残った線香花火に火をつける。 チリチリと弾けて燃える。 火の玉がポトリと落ちた。 喉の奥が苦しくなった。 「線香花火っていいよね」と、同じように縁側に座っていた徹君がぽつりとつぶやいたので、うん。そうだね。と相槌をうって、もう一つに手を伸ばす。 チリチリと飛び散る小さな火花に集中していると、徹君が立ち上がって、目の前にしゃがみこんだ。 そのまま私の持っている線香花火を一緒に見つめている。 でも、それは一瞬で、すぐにポトリと火の玉は落ちてしまった。 「あー、落ちちゃった」 顔を上げると目が合った。 心臓が飛び跳ねる。 徹君が、しゃがんだまま片手を伸ばして、浴衣の裾を軽く引っ張った。 「浴衣、かわいいね」 小さめな声でつぶやく。 今日一日、気にもされていないと思っていたから、びっくりする。 「お祭りだから」と私の緊張が伝わらないように、できるだけそのままの声で返事をした。 「ん。似合ってる」 そう言いながら、徹君は立ち上がって、一歩距離を詰めた。
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