縁側の月

11/16
前へ
/312ページ
次へ
顔を覆った手をそっと取られて、顔を見るとトオルくんはじっと私の目を見た。 「葵、俺にする?」 「え?」 急に聞かれてびっくりする。 「もう俺で良くない?」 何を言っているのか? 今さっきまでの誂うような目じゃなくって、真剣にこちらを伺っている。 「どういう意味?」 「彼氏。俺で良くない?」 困ったような顔で聞いてくる。 なんて言えば良いのか分からなくって言葉に詰まる。 私はどうしようもないくらいに徹君が好きだ。 他に誰が居るわけでもない。 一晩限りの気まぐれでも良いと思うくらいに、惹かれている。 「私、徹君が好きだよ」 精一杯応えるには、ただこれしかない気がした。 ふっと緊張を解くように笑うと「俺も」と返してくれた。 本当なら、夢みたいに嬉しい。 「お付き合い、する?」と私から改めて聞くと、「まじで嬉しい」とぎゅっと抱きしめられた。 「はぁ、浮かれちゃって、やばい」 徹君は顔をあげるとそう言って、私の髪を撫でて耳にかけてくれる。 浮かれているのはこっちだ。 座っている徹君の唇にキスを落とす。 逆に深く掴まれて、離してくれない。捕えられる。 「と、徹くん」鼻で息をしているつもりでも息苦しくなってしまう。 「呼び捨てでいいって、言ったよね」と目を細めて笑った。 この人、こんなに甘ったるい顔をするのか。 「まだ、慣れないだけ。呼び捨てにするよ」 「ふーん。じゃ、慣れてもらう」と、言うと、もう一度私の髪を耳にかけて、そのまま指をつーっと身体のラインをなぞるように、身体の横を下ろしていく。 指に皮膚の全神経が集中しているのに、恐ろしいほど色っぽい目つきで私を見るから、目が離せない。 パジャマのウエストに指が当たると、くるりと方向を変えて、おヘソまでウエストをなぞる。 私の反応を伺うような誂うような目でこっちを見ている。 これ以上意地悪される前に先手を打つ。 「トオル」  「好きなの」
/312ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4823人が本棚に入れています
本棚に追加