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あの日俺はいつものように妻の介護をしていた。
もう回復する見込みのない人を看るというのは無駄な気がしてきていた頃だった。
妻が病に倒れた最初の頃は、そんなこと微塵も思っていなかった。
不慣れな俺の介護で少しでも良くなってくれれば。良くなる事が望めなくても、一緒にいられる時間が長ければ。そう思っていた。
しかし自らの経験がそんな想いを一変させた。
介護鬱。
言葉では聞いた事があったが、全く身近ではない言葉。それが襲ってきた。
記憶の中で笑いかけてくる妻。そんな妻にいつか戻ってくれるだろうと必死に介護をした。
しかし回復の見込みが全くなかった。
それだけではない。医療費という膨大なお金が毎月綿毛のように飛んでいく。ふっと一息かけると無くなってしまう。
もう限界だった。
いやっ!限界を通り越していた。
お金が底をついた。
少し前から自宅介護に切り替えていた。
先生が来るのは週に一回。それ以外は妻と二人きりだ。
元気な頃の妻の言葉を思い出した。
「私がもしもの時は放っといていいからね。あなたに恥ずかしいとこ見せたくないし、生かされるのも何だかね」
その時は笑い話だったが、それが今現実に起こってしまった。
妻は生かされて続けるのを本当に望んでいなかったのだろうか。生かされるくらいなら死を選んでいたのだろうか。
その言葉を何度今の妻に問いかけてきたか。問いかけても問いかけても一向に答えは返ってこない。常に一方通行だ。
しかし、もう無理だった。
俺は妻に繋がっているコードを全て取っ払った。取っ払ったというよりもなぎ倒し引きちぎったという方が正しい気がする。
そして妻の首に手を回した。
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