少女たちの素敵な花園

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 女の子は笑顔で私の目を覗き込んでから,急に私に興味を失ったかのように不機嫌になった。乱暴にビニル袋を振り回す音がしたかと思うと,ブツブツとなにかを呟いていた。 「マジでムカつく。あんなに頑張ってネットで勉強して,先輩の残した資料いっぱい読んで結子でいろいろ実験して麻酔の投与量とスピードもバッチリだったのに。なんで明日香の首が勝手に横向いてんだよ。この部屋の鍵だって苦労して手に入れたのに。なんなんだよ。これじゃ,あの頃と変わんねぇじゃん」  女の子が毒を吐きながら部屋を行ったり来たりしている音が私の薄れゆく意識の中で小学校の頃の風景を思い出させていた。 『明日香ちゃん……来週誕生日だよね。クラスのみんなで,なにかサプライズを用意しようと思ってるんだぁ……』  頭の中で『こいつ,馬鹿じゃねぇの……サプライズする相手に言うとか,マジで最悪……』と何度もその場面が頭の中で繰り返され,教室で結子と美樹と私の三人で怒っている姿が思い出された。  私の記憶にあるあいつは,こんな笑顔をするようなやつじゃなく,教室でいつも孤立し,グループを組むときはいつも最後まで一人余っていた。あの時なんで私に声を掛けてきたのかもわからず,いつも余計なことしかしない気味の悪いやつだった。  首筋が焼けるように熱くなり,さらに意識が薄れ,目を開けていることができなくなった瞬間,あいつの顔をハッキリと思い出した。教室の片隅で,やけに身長が低く,小柄で,ひどいニキビ肌の健治(けんじ)が薄気味悪い笑顔でいつも私を見ていたあの目は,女の子が最後に私に向けたものと同じだった。  
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